logo.jpg

ABOUT

MAIL

CRACKL ZiNES

自分自身を媒介者として友人たちとの対話の中に気づき、知り、小さく行動しはじめることの短い観察日記のようなものを少しずつ。

友人や自分自身のもつバックグラウンドや経験、興味についての対話から、気づいたこと、知りたいと思ったこと、なぜそう思ったのか、知ったあとにどう行動できるか/したかの自己観察のようなテキストを更新します。 ニュースでとりあげられるような大きく、どこか遠いところを見るのではなく、私達の隣人や生活の中から何をどうやって見て、知って、動くか、そのヒントを探していきたいと思います。

プロジェクト企画・製作者: 宇都木大樹 / daiki utsugi

2021.07.12

友人と僕:香港とわたしたち

茨城県で生まれ育ち、埼玉の高校を卒業した後、大学進学とともに東京で一人暮らしを始めた。高校時代から海外の友人を持つ機会に恵まれ、大学では留学生や海外にルーツを持っていたり、海外での生活が長かった友人が多かったためか、とりわけ友人らのルーツが日常のコミュニケーションに浮上してイシューになることは多くはなかった。もちろん僕が無知であったり、気づいていないだけだったかもしれないけれど。

大学を卒業して、就職をして、生活のほとんどの時間を仕事に費やして、直にコミュニケーションする友人も少しずつ減り、そんな中でもちろん、新しい友人ができるわけでもなく過ごしていた。

仕事の休憩時間や夜寝る前にぼんやり眺めるニュースやTwitterで耳に目に入ってくる技能実習制度のおかしさ、海外ルーツであることを理由にしたと思われる権力による不当な暴力、入管の問題。頭の中では怒りが立ち昇ってくるけれど、数分後には仕事に戻ったり、明日の仕事のために寝たりで、ちゃんと自分の怒りや社会の不条理に面と向かうことのない生活をしていた。

今回のプロジェクトに参加したきっかけも、そんななかで何かきっかけがあれば、何かが変わるかもしれない、みたいな期待があったのだと思う。

プロジェクトの詳細はここでは割愛するが、そもそも日常の中で赤の他人と出会うきっかけが僕にはなかった。こういうテーマに向き合っているから、当事者と出会いに行かなくちゃみたいなのもなんか違うよなって折り合いがつかず、知っている(と思っている)ことだけが少しずつ増えていった。

プロジェクトのゴールとして何か制作物をつくるとなった時に、じゃあ、どうやって僕は向き合っていけばいいんだろうか?となり考えあぐねいていた。 だから、僕は、なんとなく通り過ぎてしまっていたかもしれない友人との関係性について、再び出会うことを選択してみた。

ひとりの友人と僕との関係性の中にはいくつもの文脈がある。どれかひとつで僕たちの友情が成り立っているわけでもないし、もしかしたらいくつかの文脈はそれぞれが気づかれないようにあるいは触れないようにしているものもあるかもしれない。だから再び向き合うことは意外とちょっと緊張してしまうこともある。だけれども、自分の目的以上に、向き合うことを許してくれた友人に対しての尊敬を常に持ちつつ、少しずつ自分の歩みを続けている。

今回は台湾にルーツを持つ友人に香港の民主主義についての話を聞き、それらの話を僕が編集し、更にその体験の前後での僕の行動の変化を簡単に書き記
したZineを制作した。 台湾ルーツの友人から香港の話?となるかもしれないけれど、そこには歴史も家族もいろんな思いが地続きで存在している。

僕にとってそれが新しい行動のきっかけであったように、これを読んでくれたあなたにとっても小さくてもいいから何かが小さく動き出す機会になってくれたらとても嬉しいです。

日本に暮らす直接的には交わらない、困難や生き辛さに直面する人々と向き合う方法はまだ分からないけれど、自分のいまいる場所から少しずつでも動いていみようとする、考えてみようとする僕の小さな記録がはじまる。


ーー 以下、Zine全文 ーー


5 年ぶりくらいに大学時代の友人とちゃんと話をした。僕はいま Tokyo Art Research Lab というところで「背景の異なる他者と関わる」というテーマの通年ワークショップに参加している。背景の異なる他者、とりわけ海外ルーツの他者との関わりについて半年間ゆっくりと考えていた。

自身の中にある他者と関わる際のハードルを認識し、それをすこしずつ越えていく思考・実践を目指している。いざ海外ルーツの他者と関わろうとするとあまり身体が動かない。自分の目的のために他者と出会い、関係を持つことがなんとんなくずっと整理がついていなかった。友人と話をしていて改めて気づいたけれど、既に関係のある友人とでさえ、海外 / ルーツというきっかけひとつにしてもまだ知らないことは多かったし、自分や自分の近いアイデンティティのことすらまともに扱えていないのに目的が定まらないままにその目的のために他者と関係することに踏み出せなかった。

そんなことを考えながらもなんとなく気になっていたことがあった。それが今回、話をした友人の SNS での最近の投稿だった。友人は日本語に限らず、香港情勢に関する投稿が多かった。

今回のテーマがずっと頭の中にあったから、話を聞いてみたいとお願いした。
今回のテーマがなかったら、もしかしたら話を聞きもせずにいたかもしれない。
その友人は台湾と日本をルーツに持っている。そして今のパートナーが香港人、さらにインターンシップでも香港で生活したことがあり、次第に香港情勢に関心を持ち SNSで発信していると言った。

2014 年の雨傘革命や 2019 年の逃亡犯条例改正に対するデモは記憶に新しい。
新しいだけではなく今もそれは続いている。周庭さんの Twitter をフォローしているくらいで、なにが、なぜ起こっているのかなんて私はちゃんと知っていなかった。友人の言葉、友人が投稿する記事によって香港・香港人が置かれている状態についてはじめて頭の中が整理された。それ以上に、友人の話をひたすらに聞くことで、長い間友人をしていたのに知らなかったけれどその友人の中の大切な部分について知ることができた。
けれど、そのいずれも、きっかけがなかったら開くこともないままだったかもしれない、
きっと開かれることはなかっただろうな友人の話を聞く前の自分をいま、これを書きながら思っている。
友人に目黒区美術館で香港のことについて展示がやっていることを聞き、さっそく行ってきた。

「香港人は変幻自在展 友よ、水になれ」 1997年の香港の主権移行以降の歴史、2019年以降のデモの写真や実際に使われたマテリアルのインスタレーション、プロテストアート、香港人のプレイリストの再生、メディア記事。それらすべてに丁寧に日本語と英語でテキストが付いていた。
それらを通してだけれども、人々が連帯する姿、人々が暴力の危機に晒される姿、それでも戦い続ける姿には素直に圧倒された。
自分のアイデンティティに関わる過去のデモや、自身が一時期参加していた国会議事堂前でのデモを思い出した。
現在でもそれを越える危機の中で多くの人がデモをしている姿にどういう姿勢でどういう関係性を持てばいいのかはまだ整理できていない。
ただただ暴力の危険性を感じながら生きなければいけない人々がいるということに怒りや哀しみが湧いてくる。
僕が知らないだけでこのイシューに真剣に向き合っている / 向き合いざるを得ない人々がきっとたくさん僕の周りにはいるはずなのに、僕はどこかで海の向こうが大変らしいしか思えてなかった。少し前の自分には戻れない、知るということの不可逆性の入り口にいま立っている。

友人がたくさんの想いを話してくれた。

「自分のパートナーや自分がインターンしていた国が戦場のようになったり、同じ年代の人々が苦しむ姿が悲しい。」

「ここ数年でどんどん香港が変わっていってしまっている。」

「自分が香港人として生まれていたらあのデモの現場にきっと自分もいるんだろうと思う。」

「台湾のルーツがあるから、台湾がいつか香港のようになってしまうのではないかという危機感もある。」

「自分が日本でこう生活しているのも申し訳なく感じる時もある。」

「SNS でシェアしているけれど、見ている人に押し付けとか苦しめているかもしれないと思ってしまう時がある。」

「けれども、投稿をきっかけに香港について聞いてくれる友人がいると嬉しい。」

「無差別な暴力を、見て分かる差別を正しいと言えるのがなんでかわからない。」

「大人たちがつくりだした世界で若い人が苦しんでいる。若い人たちは自分たちを犠牲にしてデモをしている。」

「お母さんに香港の話をしたら、私は日本人としての意識が強いから、日本はどこかの国と揉めることがなくていいよねって言われた。お母さんもどこかで辛い気持ちを抱いていることにその会話で初めて気づいた。そんな気持ち、いままで知らなかった。」

「もし自分といまのパートナーとの間に子どもができたらその子は台湾・日本・香港のルーツを持つことになる。その子にどう伝えたらいいんだろうとも考えてしまう。」

「いま私にできることは SNS の投稿しかないけれど、後悔しないためにやっている。いつも頭の中ですごい考えているからふと自分なにしてるんだろうとか、もっとしたいことあるんじゃないかなって思ってしまう。」


今回のコミュニケーションの前後の話。

1. 頭の中になにかを探す、気になるきっかけを持っておく
2. 日常で気になったことを素通りしなし
3. 話の聞き方に注意しながら話を聞いてみる
4. 自分でも調べてみる
5. 自分で経験できる場所にフィジカルに行ってみる
6. SNSハッシュタグなど小さなアクティビズムからはじめてみる (FreeHongKong)

対話を基に作成したA3サイズのZine ※再配布などのすべての2次利用を禁じます。

PAGE 1

企画・製作者

宇都木大樹 / daiki utsugi

会社員/アーティスト 国際基督教大学で社会的マイノリティとアートについて学ぶ。 "Do you exist?"という問いを出発点に、アートやテキスト、仕事など様々な手法で自分自身や他者との関係性、あらゆる存在の可能性について向き合っている。

https://www.notion.so/daikiutsugi/About-Me-8b17d819751a44f0ab8d55eda83c89eb